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ホンダ・スポーツの原点は『S』だ。
1962年のS36O/S5OOに始まり、
S6OO、S8OOまで発展したこのスポーツカーは、
当時のホンダの個性や新機軸が盛り込まれていた。
そんな『S』の姿、ホンダ・スポ―ツの原点の思いは
レストアというかたちで現代に伝えられる…
第2回 ボディ完成編はコチラ
第3回 メカニズム編はコチラ
第4回 完全復活編はコチラ
この特集は「ボンダ・スタイル」vol.8/5月18日発売(アポロ出版)に掲載された記事です。
アポロ出版「ホンダスタイル」 のページはコチラ。

レストアにより蘇るホンダ・スポーツの原点『S』

 レストアの世界というとノスタルジックな過去の想い出に心奪われた、ちょっと浮き世離れした人たちを思い浮かべるだろう。「昔のクルマは美しかった。今のクルマは色気がない」と性能よりもデザインという無条件の美学でものいう懐古主義者かと。

しかし見た目の姿だけをトレースしたようなものは本来レストアとは呼べない。そのクルマが創られた時に込められた思い、課せられた使命を現代にまで伝える生き証人を蘇らせること。それが『レストア』というものなのだ。

1965年、S500/S600とすでに1万台以上の『S』を生産してきたホンダが、悲願であった時速160kmを実現すべく投入したモデル、それがS800だ。

ここに一台のS80Qがある。1967年式、イギリスから逆輸入された車両だ。37年の歳月、さらには事故を経験し、あとは鉄の塊になるだけだったはずのものだ。こんなに変わり果てた姿でもS800であることには間違いない。このS800はいくつかの幸運な偶然に運ばれ、レストアの名門「ガレージイワサ」で生まれ変わることとなった。

よくレストアには時間がかかるという。1年2年はざら。完壁に蘇らせるのに5年、10年の時間を費やしたなんてことも聞く。しかし「ガレージイワサ」のレストアする『S』はたいてい3か月がリミットだ。「新車に近付ける気持ちでレストアするんだよ」これがガレージイワサ代表・岩佐氏の主義。当時の『S』を蘇らせるには、当時と同じ造り方をするのが一番なのだ。 これから3か月間にわたってS800がS800としての姿を取り戻し、本来与えられたその使命を再び果たすその日までの日々を追っていこう。

もっとも重要なポディ板金は1mmの誤差も許されない


連載1回目の今月はレストアのなかでもっとも重要な行程である、ボディの板金作業。クルマのシャシー及びボディは、家に例えるなら土台となる部分だ。ここが手抜きされていると、いくら外側をきれいに化粧してもすぐにまた劣化してしまう。
まずは取りかかるのは腐蝕したボディの解体だ。ただばらしていくのではなく、クルマの現状を診断しながら、修復する部分と新しいパーツに付け替える部分を見極めていく。レストアの基本として極力その個体の部品を修復して使うが、どうしても修復できないパーツはほかの車両から流用する。前にも触れた通りこのエスハチは大きな事故を経験している。右側のフードレッジパネル(フェンダーインナーパネル)は修復不可能だったためほかの車体からパーツ取りをし溶接するのだ。

事故で破損したドアは2枚とも取り外されており、クルマの向こう側まで見えてしまう。まるで両側スライドドア? このアングルからみるとリヤ部は状態が良さそうだが…。

トラックに乗せられて「ガレージイワサ」に運び込まれた1967年式のS800。見ての通り自走はおろか原型をやっととどめているような状態だ。これが本当に直るのかと思わず不安になる。

@ ボディ解体に取りかかる。右前方から受けた事故及び腐蝕によりフロントマスク、フロントフェンダ―は修復不可能。各部の状態を確認しながら解体していく。
A 作業の振動でボディにゆがみが生じないようドア部分をバーで固定。また水平状態を保つためにフレーム修正機の上で作業を進める。こうした細心の注意があってこそ1mmのズレもないボディが完成し、新車時にも増したボディ剛性を手に入れることができる。
B 修復不可能だった右側のフードレッジパネルをほかのS800からパーツ流用し溶接。
C 左右ロッカーパネル(ステップ)もサビがひどい。この部分はオープンカーにとって大事な補強部分なので、内側の補強パネルと外側の補強バネルをそれぞれ製作。水抜きの穴もあけ、鉄板の内側にまでサビ止めを施す。
D 切りつぎの基本はサビている部分を切り取り、新しい鉄板で同じ形のものを作り溶接してつなぎあわせる。外側からかぶせるように溶接しても、内側からすぐにサビてしまうので意味がない。
E ドアの下部分は水がたまってサビやすい。
F 運転席側のフロア。腐蝕部分も切り取って溶接する。
G 一枚の鉄板から波板を作り溶接する。波板にすることでボディ全体の強度も上がるため大切なセクションである。
H 4で切り取ったステップ部分の内側。これだけ腐食しているものをそのままにしたら、内側からサビてくるのは当然。
I 7で切り取ったフロア部分も同様だ。
J フロントマスク、フェンダー部は在庫してある新品のパネルを使用した。特にフロントマスクとライトの取り付け部分は念入りに合わせが必要だ。
K リヤ部はトランク交換、左リヤフェンダー下部とバックパネルの板金を行なった。
L プライマー(サビ止め)をボディ全体に施し板金作業は完
了。このあと塗装行程へと進む。

 ただし、このフードレッジバネルやロッカーパネルの溶接に取りかかる前に忘れてはいけないレストアの極意がある。オープンカーであるS800では特に言えることなのだが、修復中の振動でボディにゆがみができないように、ドア部分をバーで固定する。また、事故歴のあるクルマはフレーム修正機などのある水平が取れている工場で作業しなければ正確な修理はできない。 レストアにはこうしたことが大切な要素となってくる。

次にサビている部分の切りつぎ作業に入る。外から見てサビていないようでも内側はサビていることもあるし、また外側だけをサンドブラストなどしても何の効果もない。サビている部分はすべて切り取って、新しい鉄板で同じ形のものを作りつなぎあわせていく。

ステップパネル、フロアだけでなくフロント/リヤフェンダー、フロントマスク、バックパネル、トランクも新調した。鉄板むき出しのままだとすぐにサビてしまうため、プライマー(サビ止め)をボディ全体に吹き掛けて、飯金作業は完了だ。

このあと連載2、3回目でボディ塗装、ボディとシャシーのドッキング、エンジン・ミッションの組みつけ、エンジン搭載の行程を追っていく。レストア完了後にはS800の実走インプレッションも予定しているのでお楽しみに。

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